結論を先に書きます

信託報酬の差は、1年で見ると小さく、年数を掛けると大きくなります。同じ指数に連動し、同じ年率5%で増える2本が、信託報酬だけ0.1%と0.75%で違うと仮定して、月5万円を積み立てる机上の計算をしました。その差は12年で約44万円、20年で約159万円、30年で約497万円です(どちらも税抜の率に消費税10%を足して計算)。

0.1%と0.75%は、適当に置いた数字ではありません。金融庁の公表では、新NISAのつみたて投資枠の対象は371本(2026年9月24日時点)で、投資先を内外・海外とする指定インデックス投信の信託報酬は、0.1%以下の区間に36本、上限0.75%の手前の0.7%超〜0.75%以下の区間に21本あります(税抜)。資料は区間ごとの本数なので、計算にはそれぞれの区間の端の値を使いました。

  • 「つみたて投資枠の対象だから、どれを選んでも信託報酬は同じ」とは言えない
  • 差は時間とともに開き、30年では12年の10倍を超える
  • 信託報酬の外にも、売買委託手数料などの費用がある

以下、2026年9月時点の公開資料と、机の上の計算で確かめた記録です。将来の増え方を約束するものではありません。

信託報酬は、いつ・どこから引かれているか

信託報酬(正式には「運用管理費用」)は、投資信託を持っている間ずっとかかる費用です。資産運用業協会(旧・投資信託協会)の説明では、この費用は投資信託の信託財産から間接的に支払われ、保有額に応じて日々差し引かれます。受け取るのは、運用会社・販売会社・信託銀行の3者です。

請求書も引き落としの明細も届きません。毎日の基準価額が、費用を差し引いた後の値で出てくるからです。100万円を信託報酬0.75%(税込0.825%)の商品で持つと、1年の費用は約8,250円で、1日に直すと約23円です。1日23円は気づきません。気づかない費用だから、年数を掛けた時の姿を先に見ておく意味があります。

底に小さな穴の開いたコップを思い浮かべると、分かりやすくなります。

ほぼ満杯の透明なコップ。上から金色の水(つみたて)が注がれ、底のごく小さな穴から細い水がわずかに漏れている。漏れより、残る量のほうが圧倒的に多いことを表す温かいイラスト
つみたて=コップに水を足すこと。信託報酬=底の小さな穴。穴の小さいコップを選ぶほど、長くためるほど、手元に多く残る。

つみたて投資枠の371本は、信託報酬がどう分かれているか

金融庁は、つみたて投資枠の対象商品について、信託報酬率の分布を公表しています。2026年9月24日時点の資料から、指定インデックス投信の分を書き写します(率はすべて税抜)。

投資先を国内とする指定インデックス投信(平均0.27%・法令上の上限0.5%)

信託報酬率(税抜)本数
0.05%超〜0.1%以下1本
0.1%超〜0.2%以下29本
0.2%超〜0.3%以下5本
0.3%超〜0.4%以下12本
0.4%超〜0.5%以下12本

投資先を内外・海外とする指定インデックス投信(平均0.34%・法令上の上限0.75%)

信託報酬率(税抜)本数
0%超〜0.1%以下36本
0.1%超〜0.2%以下43本
0.2%超〜0.3%以下30本
0.3%超〜0.4%以下33本
0.4%超〜0.5%以下46本
0.5%超〜0.6%以下14本
0.6%超〜0.7%以下5本
0.7%超〜0.75%以下21本

内外・海外の側を見ると、0.1%以下の商品が36本ある一方で、上限に近い0.7%超の商品も21本あります。いちばん本数が多いのは0.4%超〜0.5%以下の46本です。「つみたて投資枠に入っている=最安の部類」ではなく、枠の中にも数倍の開きがある、というのが資料から読める形です。

年数ごとに、いくら差がつくか(計算表)

条件は、月5万円(年60万円)を積み立て、年率5%で増えると仮定し、その増え方から信託報酬を差し引いた月次の複利で計算しました。信託報酬は、上の資料の区間の端の値(0.1%・上限0.75%)と平均(0.34%)に、消費税10%を足しています。月5万円は、つみたて投資枠の年間の上限120万円の半分です。

⚠️ この表は、信託報酬だけが違う仮定の商品どうしの比較です。実際の商品は、連動する指数・為替・運用のずれ(指数との差)で増え方そのものが違うので、表の差が実在する2本の差にそのままなるわけではありません。表が示しているのは、差のうち信託報酬が生む部分だけです。

もう1つ、資料は区間ごとの本数なので、0.7%超〜0.75%以下の21本が0.75%ちょうどとは限りません。区間の下の端の0.7%で計算し直すと、0.1%との差は10年で約27万円、12年で約41万円、20年で約147万円、30年で約462万円です。表の値は、この幅の上の端にあたります。

積み立てた年数入れたお金0.1%で残る額平均0.34%で残る額上限0.75%で残る額0.1%と0.75%の差
10年600万円約772万円約761万円約743万円約29万円
12年720万円約977万円約960万円約933万円約44万円
20年1,200万円約2,029万円約1,969万円約1,870万円約159万円
30年1,800万円約4,078万円約3,885万円約3,581万円約497万円

30年・1,800万円は、新NISAの生涯の非課税保有限度額(1,800万円)とちょうど同じ額です。枠を使い切るまで積み立てた場合、信託報酬だけの0.65ポイントの差が、机上では約500万円の差になります。

平均(0.34%)と0.1%の差も、12年で約17万円、30年で約193万円あります。

0.1%安い
977万
0.34%平均
960万
0.75%上限
933万
約 44 万円多く残る
月5万円・年率5%・12年(机上試算・税抜の率に消費税10%を加算)。バーは12年後に残るお金(万円)。

新NISAは、もうけに税金がかからない制度です。ただ、信託報酬は非課税とは別に、持っている間ずっと引かれます。「非課税だから手数料は気にしなくていい」は、ここで取りこぼします。

自分の数字で動かすと、見え方が変わります。

信託報酬 0.1%(低コスト)
―
選択中の信託報酬
―

※ 月次複利の机上試算。終価=積立元本+運用益。年率は仮定値で将来を保証しません。信託報酬は入れた率のまま(消費税を足していない)で計算します。

触って確かめる:毎月の積立額・想定の増え方・信託報酬・年数を動かすと、安いものを選んだときに多く残る額がどう育つか。

月次複利の机上計算/年率は仮定値で将来を保証しません/2026年9月時点

なぜ、差は年数よりも速く開くのか

表の「0.1%と0.75%の差」は、10年で約29万円、30年で約497万円です。年数は3倍なのに、差は17倍になっています。

理由は2つ重なっています。1つは、信託報酬が「入れたお金」ではなく「その時の保有額」に掛かることです。積み立てが進み、増えた分も含めて保有額が大きくなるほど、同じ率でも引かれる額が大きくなります。もう1つは、引かれたお金がその後に増えるはずだった分も失われることです。増えたお金がさらに増える複利は、もうけにも、費用にも同じように効きます。

だから、信託報酬の差は、持つ期間が長い人ほど大きく効きます。反対に、数年で使う予定のお金なら、差は小さくとどまります(表の10年でも約29万円)。

信託報酬の外にも費用がある

信託報酬の率は目論見書で事前に分かります。一方、資産運用業協会の説明では、株などを売買した時の売買委託手数料は「運用の結果発生する費用」なので、事前にいくらかかるかは示せません。ほかに、決算ごとの監査報酬なども信託財産から支払われます。

これらを含めた、実際にかかった費用は、運用が終わった期の運用報告書に「1万口当たりの費用明細」として載ります。信託報酬の率だけで比べて、ほぼ同じに見える2本でも、運用報告書の費用明細では差が出ることがあります。比べる時は、目論見書の信託報酬と、運用報告書の費用明細の両方を見るのが確実です。

つまずく人は、だいたい3パターン

このサイトでは、信託報酬でつまずくポイントを、ざっくり3つに分けて整理します。

  1. 「0.1%なんて誤差」型:小さい数字だと思って、手数料の高い商品を選ぶ。10年たって計算して、初めて穴の大きさに気づく。
  2. 乗り換えすぎ型:もっと安いものが出るたびに乗り換える。新NISAでは、売るとその年の枠は戻らず、空いた枠が使えるのは翌年です。「乗り換えて取り返す」は、今の制度だと逆効果になりがちです。
  3. 奥の手数料を見落とす型:信託報酬だけ見て、運用報告書の費用明細にある、その他の費用を見ていない。
1
誤差扱い型
「0.1%なんて誤差」とアクティブ系を選ぶ。10年後に差を計算して初めて重さに気づく。
2
乗り換え型
低コスト新商品が出るたび乗り換え。新NISAでは売却=枠の消費、翌年まで戻らない。二度刺さる。
3
隠れコスト見落とし型
信託報酬だけ見て、信託財産留保額・為替手数料・隠れ売買コストを確認していない。

責める話ではありません。痛みを感じにくい費用だから、こうなります。

サウナでたとえると(外気温の設定)

信託報酬は、外気浴の「外の気温の設定」に近いものです。

= リターン
日々の体感を大きく左右。ニュースで気になるのはここ
= 暴落
強い体感。覚悟が問われる局面
= 信託報酬
体感に出にくいが、「ととのう」までの所要時間に効く

外の気温が1度ちがうだけで、「ととのう」までの時間は変わります。短い時間なら差は出ないけれど、長くいるほど効いてくる。しかも外の気温は施設で決まっていて、入ったあとは変えられません。

信託報酬も同じで、商品を選ぶ時に決まり、持ち始めたあとは変えにくい。だから、最初に選ぶ時にここを見たかどうかで、20年後・30年後の手取りが変わります。

立場ごとの見方

急がなくて大丈夫です。立場ごとに整理します。

  • これから始める人:商品名を急いで覚えるより、目論見書で「信託報酬」の率を見て、上の分布のどのあたりかを確かめるクセをつけるほうが先です。
  • すでに信託報酬の高い商品を持っている人:あわてて乗り換えなくていい。まず、いま持っている商品の費用が、年にいくらかを出してみる(保有額×率)。乗り換えるかは、新NISAの枠・もうけが出ているか・課税口座かどうかで変わります。人によります。
  • すでに0.1%前後の商品で続けている人:値下げは続いていますが、0.1%前後どうしの差は小さく、月5万円の規模なら、追いかけて乗り換えても年に数百円の違いです。今のままで十分です。

特定の商品を「買いなさい」という記事ではありません。穴の大きさの見方を、置いておくだけです。

信託報酬の差がここまで小さくなると、選ぶ理由はコストの外側に移ります。オルカンとS&P500の中身を並べた回では、両者の信託報酬は0.05775%と0.0814%で、差は年率0.024ポイントほどでした。上の表の0.65ポイントの差と比べると、約27分の1です。

まとめ

  • 信託報酬は、保有額に応じて日々、信託財産から差し引かれる(資産運用業協会)
  • つみたて投資枠の対象は371本。指定インデックス投信の信託報酬は、国内型が平均0.27%・上限0.5%、内外・海外型が平均0.34%・上限0.75%(税抜・金融庁・2026年9月24日時点)
  • 信託報酬だけが違う2本を仮定した机上計算(月5万円・年率5%)で、0.1%と0.75%の差は12年で約44万円、20年で約159万円、30年で約497万円。実在の商品の差は、指数や為替でも変わる
  • 差は年数より速く開く(保有額に掛かる・引かれた分の複利も失う)
  • 信託報酬の外の費用は、運用報告書の「1万口当たりの費用明細」で確かめる

参考(公開情報)

本記事は情報提供であって、特定の金融商品の購入・契約をすすめるものではありません。年率5%は仮定値で、将来の増え方を保証するものではなく、実際の結果は相場で上下します。数値は2026年9月時点の公開資料と机上計算にもとづき、丸めています。投資の判断はご自身の責任で。

—— 渋川 整