先に、結論
信託報酬という手数料が 0.1% 安いものを選ぶ だけで、月 5 万円・12 年のつみたてで、手元に残るお金が 約 6 万円 多くなります。1% 安ければ、その差は 約 55 万円。
年 5% で増えると仮定した、机の上の計算です。将来を約束するものではありません。それでも「たった 0.1%」が、12 年という時間を掛けると、これだけ変わります。
信託報酬って、なに?
投資信託は、みんなのお金をひとつの箱にまとめて、プロが代わりに運用する仕組みです。その手間賃として、箱を持っている間ずっと引かれ続けるのが信託報酬。1 年に 1 回ではなく、毎日少しずつ自動で引かれるので、明細に出てきません。気づかないうちに減っていきます。
底に小さな穴の開いたコップを、思い浮かべてください。
毎月コップに水(つみたて)を足す。底の穴(信託報酬)から、少しずつ漏れる。穴の小さいコップを選べば、同じだけ入れても 多く残ります。1 日の差はわずかでも、12 年=4000 日を超えると、残る量にはっきり差が出ます。
穴の大きさで、残る額はこう変わる
月 5 万円を 12 年(144 回)。入れた額は、どれも 720 万円で同じ。違うのは穴の大きさ(信託報酬)だけです。
入れたお金はどれも同じ。それでも、いちばん安い 0.1% と高い 1.0% では、残るお金が 約 55 万円 ちがいます。
新 NISA は「もうけに税金がかからない(非課税)」のがウリですが、信託報酬は、その非課税とは関係なく、別で引かれ続けます。「非課税だから手数料は気にしなくていい」は、ここで取りこぼします。
表だと小さく見えるかもしれません。自分の数字で動かすと、見え方が変わります。
※ 月次複利の机上試算。終価=積立元本+運用益。年率は仮定値で将来を保証しません(2026年5月時点)。
月次複利の机上計算/年率は仮定値で将来を保証しません/2026年5月時点
長く持つほど、差は大きくなる
同じ条件で 24 年までためると、差はさらに開きます。
12 年で約 55 万円だった差が、24 年では 約 320 万円 に。増えたお金がさらに増える「雪だるま」は、もうけにも、漏れ(手数料)にも同じように効きます。だから、長く持つ人ほど、穴の小ささが効いてきます。
つまずく人は、だいたい 3 パターン
公開情報や利用者の声を読み解くと、信託報酬で損した人の話は、ざっくり 3 つに分かれます。
- 「0.1% なんて誤差」型:小さい数字だと思って、手数料の高い商品を選ぶ。10 年たって計算して、初めて穴の大きさに気づく。
- 乗り換えすぎ型:もっと安いものが出るたびに乗り換える。新 NISA では、売ると その年の枠を使ってしまい、使った枠は翌年まで戻りません。「乗り換えて取り返す」は、今の制度だと逆効果になりがちです。
- 奥の手数料を見落とす型:信託報酬だけ見て、説明書(目論見書)の奥にある、その他の手数料を見ていない。
責める話ではありません。痛みを感じにくい手数料だから、こうなります。
サウナでたとえると(外気温の設定)
信託報酬は、外気浴の「外の気温の設定」に近い。
外の気温が 1 度ちがうだけで、「ととのう」までの時間は変わります。短い時間なら差は出ないけれど、長くいるほど効いてくる。しかも外の気温は施設で決まっていて、入ったあとは変えられない。
信託報酬も同じで、商品を選ぶときに決まり、持ち始めたあとは変えにくい。だから「最初に選ぶとき、ここを見たかどうか」で、12 年後の手取りが変わります。
で、あなたは今どうすればいい?
立場ごとに整理します。急がなくて大丈夫です。
- これから始める人:手数料の安い(0.1% 台の)タイプを、ふつうの初期設定に。商品名を急いで覚えるより、説明書で「信託報酬」と「その他の手数料」の両方を見るクセをつけるほうが先です。
- すでに手数料の高い商品を持っている人:あわてて乗り換えなくていい。まず、いま持っている商品の手数料が、合計で年いくらかを出してみる。乗り換えるかは、新 NISA の枠・もうけが出ているか・税金のかかる口座かで変わります。人によります。
- すでに安い商品で続けている人:値下げ競争は続いていますが、月 5 万円くらいの規模なら、追いかけて乗り換えても年に数百円。今のままで十分です。
特定の商品を「買いなさい」という記事ではありません。穴の大きさの見かたを、置いておくだけです。
数字に出ない、もう一つの得
安いタイプを選ぶ人は、商品選びで迷う時間が短くなります。迷わなければ、相場のニュースにいちいち反応する回数も減る。反応が減れば、仕事や暮らしに集中できる。
金額には出ないけれど、「長く続けられるか」に効いてくる得です。運用のいちばんの本体は、「迷う時間を消す仕組み」を作ること。信託報酬の選び方は、その一部です。
次の一歩
コップの穴の話と、雪だるまの話。この 2 つが分かれば、お金の記事の半分は読めます。
慣れてきたら、このサイトの マーケット日誌(今この瞬間の相場を、淡々と眺める記録)ものぞいてみてください。最初は分からない言葉が出てきても、それでいい。少しずつ、自分の現在地が読めるようになります。
まとめ
- 0.1% 安いものを選ぶと、月 5 万円 × 12 年で 約 6 万円 多く残る(年 5% 仮定)。1% なら 約 55 万円
- 24 年なら、その差は 約 320 万円
- つまずきは「誤差と思う」「乗り換えすぎ」「奥の手数料の見落とし」の 3 つ
- 底の穴が小さいコップほど、長くためるほど多く残る
- 2026 年 5 月時点の制度と公開情報をもとにした、机の上の計算
本記事は情報提供であって、特定の金融商品の購入・契約をすすめるものではありません。仮定した増え方は将来を保証するものではなく、実際の結果は相場で上下します。投資の判断はご自身の責任で。現行制度(新 NISA・2026 年 5 月時点)を前提としています。
—— 渋川 整