一番速く戻った暴落で、何が起きたか

2020年のコロナショックは、史上最速で落ちて、史上最速で戻った暴落でした。 米国株はおよそ1ヶ月で34%下がり、たった5ヶ月ほどで元に戻りました。

それなのに、当時の報道記録や金融機関の公開資料を辿ると、リーマンの時とほとんど同じ失敗 が、また繰り返されていました。

この記事で書くのは、ひとつだけです。

暴落で損をするのは「下がったから」ではなく、下がった時に動いてしまうから

公開されている記録から繰り返し読み取れる失敗を、3つの型に分けて書きます。 (これは リーマンショックの記事 で予告した「次回」にあたります)


34%下がる、を具体的にすると

「米国株が34%下落」と言われても、ピンと来ないかもしれません。 体感に直すと、こうです。

100万円が、1ヶ月で 66万円に見える 状態。

ここで大事なのは「見える」という言葉です。 実際に売らなければ、それは 減ったのではなく、安くなっているだけ です。 持っている株の数は1株も減っていません。値札が下がっただけ。

でも、画面の数字が赤く点滅していると、人は「34万円を失った」と感じます。 この 「感じ」と「事実」のズレ が、これから書く3つの失敗の入り口です。


2020年2〜3月、市場で起きていたこと

当時の報道記録や証券会社の公表データを並べ直すと、 リーマンの時(当時の記事)と、空気はそっくりでした。

違ったのは 速さ です。 リーマンは数ヶ月かけてジリジリ落ちた。コロナは 1ヶ月で一気に 落ちた。 速すぎて、考える時間がなかった。だから、反射で動いた人が多かった ── そうした記録が、各社の調査やニュースに残っています。

その「反射」が、3つの型に分かれます。


暴落時の3つの失敗パターン

このサイトのマーケット日誌でも繰り返し触れている、3つの型です。 2020年にも、全部、また出ました。

1. 破滅型 ──「絶好の押し目だ」と生活費まで入れる

「こんなに安いのは今だけ。生活防衛資金まで突っ込もう」

これが破滅型です。 安くなったのは事実 なので、理屈は半分合っています。 問題は「さらに下がる余地があるか、誰にもわからない」こと。

2020年3月、底だと思って全力買いした人の何人かは、その数日後の追加下落で 生活費まで含み損 になり、身動きが取れなくなりました。

→ 教訓:生活に必要なお金は、投資に回さない。これは暴落とは無関係に、最初に引く線です。

生活必需品とコインを安全なかごに分け、余剰のコインだけを投資の壺へ移すイラスト
教訓 ── 生活に必要なお金は、安全な側に。投資へ回すのは、余剰だけ。

2. 忖度型 ──「どうすればいいですか」と判断を人に預ける

「最高値からこんなに下がって…担当の方、どうすればいいですか」

これが忖度型です。 怖くなって、判断そのものを誰かに委ねて しまう。

気持ちはわかります。当時の各社の問い合わせ件数の記録を見ると、暴落のタイミングで支店窓口やコールセンターへの相談が急増しています。 ただ、正直に書くと 「3ヶ月後どうなるか」を当時誰も本当には知りませんでした。 知らない人に判断を預けても、安心は買えても、正解は買えません。

→ 教訓:「わからない」と言える専門家のほうが、むしろ誠実。 そして最終的に決めるのは、いつも自分です(このサイトも、銘柄やタイミングの指示はしません)。

分かれ道の道標で地図を見て、自分で進む方向を選ぶ人のイラスト
教訓 ── 人に聞いてもいい。でも、最後の一歩は自分で決める。

3. 狼狽型 ──底で投げる/積立を止める

一番多いのがこれです。

  • 怖くなって、底値で売ってしまう(狼狽売り
  • 毎月の自動積立を、暴落の月に止めてしまう

ドルコスト平均法」という言葉があります。 むずかしく聞こえますが、中身は 「毎月おなじ金額で、淡々と買い続ける方法」 です。 高い月は少しだけ、安い月はたくさん買えるので、平均すると有利になりやすい。

その仕組みが一番効くのは、実は 暴落の月 です。 一番安く、たくさん買えるから。 なのに、多くの人がその月にこそ積立を止めてしまう。 一番おいしい瞬間に、席を立ってしまうわけです。

→ 教訓:すでに動いている積立は、暴落時こそ止めない

ゆるやかな谷をならして歩き続け、先に朝日が見える道のイラスト
教訓 ── 下がった月こそ、淡々と。動いている積立は、止めない。

では「正解」は何だったのか(後から見れば、です)

2020年のコロナショックを、数字で振り返ります。 まずは「落ちて戻る形」で見てみてください。

暴落 1年 2年 3年 4年 暴落前の水準(0%) リーマン 2008(−56% / 回復 約4年) コロナ 2020(−34% / 回復 約5ヶ月)
図1 コロナ(金色)は、リーマン(朱色)より浅く、はるかに速く戻った。谷が小さく左に寄るほど『浅くて・速い』暴落です。

米国の主要株価指数の最大下落率と完全回復までの期間より作成(概数)

数字でも並べておきます。

暴落起きた年米株の最大下落完全回復まで
リーマンショック2008−56%約4年
コロナショック2020−34%約5ヶ月

5ヶ月で戻った、と書くと簡単ですが、当時その底で「5ヶ月で戻る」と確信できた人は、ほぼいませんでした。 当時のアナリストレポートや市場予想を辿っても、底値圏で「短期回復」を断言できていた声は見当たりません。

だから「戻るんだから買えばいい」というのは、結果論 です。 結果論を、さも当時わかっていたかのように語るのは、このサイトではしません。

後から言えるのは、ただひとつ。

何もしなかった人 ──正確には「自動積立を止めなかっただけの人」── が、静かに有利だった。


2026年5月時点で、振り返って思うこと

リーマンとコロナ、2つの暴落を並べてわかるのは、 暴落のかたちは毎回違うのに、人の慌て方は毎回同じ だということです。

だからこそ、暴落が来る前に、静かな時に決めておくことがあります。

  • 生活に必要なお金は、投資に回さない(破滅型を防ぐ)
  • 最後に決めるのは自分。「わからない」と言える人を信じる(忖度型を防ぐ)
  • 動いている積立は、暴落時こそ止めない(狼狽型を防ぐ)

派手な必勝法ではありません。 でも、長期の公開記録で繰り返し観察されてきた失敗の、ちょうど裏返しです。

暴落は必ずまた来ます。その時のために、この3つだけ、頭の隅に置いておいてください。 急いで何かを始める必要はありません。整えるのは、静かな今のうちに。

—— 渋川 整


参考資料

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