2008年9月、リーマン破綻の朝に起きていたこと
リーマン・ブラザーズの破綻は、2008年9月15日。 当時の報道記録や金融庁・取引所の公開資料を辿ると、東京の証券会社の支店窓口でも電話が鳴り止まなかった様子が読み取れます。
リーマン破綻のニュースが流れた朝、支店の電話は 3秒に1本鳴っていたと当時の現場記録には残っています。 「資産はどうなる」「今すぐ売るべきか」「会社は大丈夫か」。 電話を受けたスタッフの多くが、その場で答えを出せる状態ではありませんでした。
落ち着いて公開記録を並べ直すと、何が起きているのか、その瞬間にわかっていた人はほとんどいなかったことが見えてきます。 画面上の数字は 赤 で点滅し、現場の判断は日に日に 凍りついていった ── そんな記述が、当時の業界誌や事後検証の記事に残されています。
当時、窓口で言えなかったこと
電話に出るスタッフは、マニュアル通りの返答をしていたと記録に残っています。
「現在の市場環境は流動的でございますので、今は冷静に経過を見守ることをおすすめいたします」
これは半分は本当で、半分は 逃げ だったと、後年の検証記事は指摘しています。
本当はこう言いたかった声が、当時の業界内には多くあったと、複数の事後インタビューに記録されています。
「今、自分にも、何が起きているのかよくわからない。3ヶ月後に何が起きているかも、わからない」
でも、それは言えなかった。 証券会社のスタッフが「わからない」と言うことは、当時の業界では 裏切り に近い扱いだったと、当時の業界誌は伝えています。
18年経って、公開記録から見えてきたこと
それから18年。コロナも、円安150円も、新NISAも、すべて公開記録として並んでいます。 今、当時の現場に向けて何を書き残せるか、整理しておきます。
1. 「わからない」と言うのは、裏切りではない
リーマンの時、市場参加者の大半が、何が起きているか本当はわかっていませんでした。 わかっていない時に「わかる」と言うことの方が、よほど不誠実です。
今の業界では、「2026 年の年末に何が起きているかはわかりません」と平気で言える専門家が増えています。 それで信頼を失うどころか、むしろ信頼が増す方向に、業界全体の規範が変わってきています。
2. 暴落時に「やってはいけないこと」3つ
3 つの暴落(リーマン/チャイナショック/コロナ)の公開記録を並べると、繰り返し観察されたパターンが3つあります:
- 狼狽売り:底値で投げる。3 ヶ月後に泣く
- ナンピン買いの限界突破:「もう底だろう」で追加投入。さらに底があった
- 積立を止める:ドルコスト平均法を、暴落時に止めて中断する
こうなる人を止められるほど、当時の窓口対応マニュアルは強くなかったと、事後検証の記事は伝えています。
3. 「積立を続けた人」が、3年後に静かに笑った
逆に、何もしなかった人 ── というか、自動積立を止めなかっただけの人 ── は、 3年後(2011年頃)には含み損を解消し、5年後(2013年)には大きな含み益になっていました。
積立投資は、暴落時こそ安く買える絶好機だった。 ただ、その瞬間にそう思える人は、ほぼいない。
18年で蓄積された「暴落のデータ」
米国の主要株価指数の最大下落率と完全回復までの期間より作成(概数)
| 暴落 | 起きた年 | 米株最大下落 | 完全回復まで |
|---|---|---|---|
| リーマンショック | 2008 | −56% | 約4年 |
| チャイナショック | 2015 | −12% | 約半年 |
| コロナショック | 2020 | −34% | 約5ヶ月 |
| 2022年下落 | 2022 | −25% | 約1年 |
数字だけ見ると 「下がっても必ず戻る」 が結論ですが、これは結果論です。 当時、戻ると 確信できた人は、ほぼいませんでした。
今のあなたに、伝えておきたいこと
もし、これを読んでいるあなたが これから投資を始める のであれば。
- 暴落は、必ず来ます(来ないとしたら、それは投資ではなく預金)
- 暴落時、あなたは必ず 怖く なります(誰でもそうなります)
- その時、新規の判断はしないほうが、長期では有利です
- すでに動いている積立は、止めない のが鉄則です
- そして、「わからない」と認められる人が、最後に笑います
教科書には書いていない、公開記録を並べて初めて見えてくることです。
連載予告
次回は、2020 年コロナショック ── 史上最速の回復が、業界に何を教えたか を書きます。 リーマンの教訓があったはずなのに、また繰り返された失敗パターンの記録です。
—— 渋川 整
参考資料
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