結論を先に書きます

「累進配当」を掲げる企業が増えています。減配をせず、利益成長にあわせて配当を維持・増配していく、という方針の宣言です。ただしこの言葉、宣言している「年数の厚み」は企業によってまったく違います。

結論から書くと、KDDIは公式サイトによれば2002年度から24期連続の増配という実績のうえに立った宣言です。東京海上ホールディングスは、公式の株主還元ページで確認できる2021年度以降の5年間、毎年増配が続いています(連続年数そのものは数え方が情報源で分かれます。同社のCFOメッセージは2025年度の配当を「14期連続の増配」と記載しています)。一方でINPEXは2025年に方針そのものを新しく公表したばかりです。同じ「累進配当」という言葉でも、方針の年齢はまったく違う。これが今回、公開データを並べて見えてきたことです。

観察した事実 ── 累進配当とは何か

累進配当とは、企業が「減配を行わず、利益成長に応じて配当を維持または増やす」ことを基本方針として掲げる配当政策です。似た言葉に「連続増配」がありますが、これは結果としての実績(何年増配が続いたか)を指し、「累進配当」は方針そのものの宣言、という違いがあります。方針を掲げても、実際に何年その通りに実行されてきたかは、企業ごとの公開データを見るまで分かりません。

公開データで見る、3社の配当実績の推移

各社の公式サイト・開示資料が公表している1株あたり年間配当金を並べます(円・税引前)。

横にスクロールすると、3列すべて見られます →

KDDI
東京海上HD
INPEX
2021年度
125円
85円
2022年度
135円
100円
2023年度
140円
123円
2024年度
145円
172円
86円※1
2025年度
80円※2
218円
100円※1
2026年度(予想)
84円(目標)
245円(予想)
112円(予想)※3
※1 INPEXの決算期は1〜12月のため『2024年度』は2024年12月期、『2025年度』は2025年12月期(2026年2月12日公表の確定値)を指します。累進配当方針は2025年2月公表の中期経営計画で導入されたため、それ以前の年度は掲載していません。※2 KDDIは2025年度に1株→2株の株式分割を実施しており、分割前の年度とは単純比較できません。※3 INPEXの2026年12月期は予想値です(2026年8月7日公表の修正後・中間56円+期末56円=112円。修正前は108円)。KDDI・東京海上ホールディングス・INPEX各社公式サイト・開示資料より、2026年8月時点。

数字の並びだけ見ると、KDDIの「145円→80円」は減配に見えます。ここが今回いちばんの注意点です。KDDIは2025年4月に株式を1株から2株に分割しました。分割前の145円を分割後の株数に置き換えると、72.5円に相当します。そこから80円へは、分割調整後でも増配です。条件(株式分割)をそろえずに数字だけ並べると、逆の結論になってしまう例だと思います。

3社の宣言の厚みを、年数で並べる

  • KDDI:公式サイトによれば「2002年度より24期連続の増配を実現」。累進配当という言葉こそ前面に出していませんが、実績の年数はもっとも厚い部類です。
  • 東京海上ホールディングス:配当を株主還元の基本と位置づけ、利益成長に応じて持続的に高める方針を掲げています。公開データで確認できる2021年度以降だけでも、毎年増配が続いています。なお連続増配の年数は、株主還元のページには記載がなく、同社CFOメッセージが2025年度の配当を「14期連続の増配」と書いています(このメッセージは年間210円を見込んでいた時点の記述で、実績は218円でした。報道では別の起算で6〜7期と数える例もあり、数え方によって年数が変わります)。
  • INPEX:2025年2月公表の中期経営計画で、「1株当たり年間90円を起点とする累進配当」という方針を新しく打ち出しました。方針としての宣言はまだ1年半ほどです。ただし2026年8月7日には、2026年12月期の年間配当予想を108円から112円へ引き上げています(公表資料には「業績の成長にあわせて株主還元を強化していく」方針にもとづく修正、と書かれています)。

同じ「累進配当」という言葉でも、KDDIや東京海上ホールディングスのように長い実績のうえに立つ宣言と、INPEXのように資源価格の影響を受けやすい業種で方針そのものが新しい宣言では、重みが違って見えます。どちらが良い・悪いという話ではなく、宣言の年数を公開データで確認してから受け取る、という手順の話です。

あなたが今、〜なら

  • 「累進配当」という言葉だけを安心材料にしたい人:まず、その企業が何年その方針を実行してきたか、公式サイトの配当金推移を確認してください。宣言したばかりの企業と、20年以上続けてきた企業では、確度が違います。
  • すでに累進配当を掲げる企業の株式を保有している人:方針は業績が悪化すれば見直される可能性があります。「累進配当だから減配しない」という確約ではありません。決算発表のたびに、方針の継続が明言されているかを確認する習慣が向いています。
  • 配当の年数だけで判断したくない人:業種の違い(資源・保険・通信では利益変動の性質が違います)もあわせて見る材料になります。

累進配当の宣言は、個別銘柄の推奨材料ではありません。ここに挙げた3社も、購入をすすめる意図で並べたものではなく、あくまで「公開データを、宣言年数という軸で並べる」ための例です。個別判断になります。

サウナで言えば

累進配当は、サウナで言えば「今日は熱気を強めに設定します」という、施設側の宣言に近いところがあります。宣言された温度がずっと保たれるかどうかは、実際に何年営業を続けてきたか、記録を見るまで分かりません。開業したばかりの施設の宣言と、20年営業してきた施設の宣言は、同じ言葉でも重みが違う。配当も同じだと、公開データを並べていて感じます。

まとめ

  • 累進配当とは「減配せず、維持または増配を目指す」方針の宣言。連続増配という実績とは別物
  • KDDIは2002年度から24期連続増配、東京海上ホールディングスも公式ページで確認できる2021年度以降は毎年増配(連続年数は数え方が情報源で分かれます)
  • INPEXは2025年に方針を新しく公表したばかりで、宣言の年数はまだ浅い
  • 株式分割など、条件が変わると数字の見え方も変わる(KDDIの例)
  • 方針は確約ではなく、業績次第で見直される可能性がある。個別判断になります

本記事は情報提供であって、特定の金融商品の購入・契約をすすめるものではありません。掲載した企業は観察対象の例であり、個別銘柄を推奨するものではありません。数値は各社公式サイト・開示資料にもとづく2026年8月時点のものです。方針は将来変更される可能性があります。投資判断はご自身の責任で行ってください。

参考(一次情報)

—— 渋川 整