これは、公開記録から読み解く話です

2013年からの「アベノミクス」、特に日銀の異次元緩和は、戦後の金融政策のなかでも大きな転換点として記録されています。 ここからは、当時の報道・取引所データ・公的統計など、公開された記録を並べて読み解きます。

暴落の記事が続きましたが、これは逆の話です。 上げ相場で、人がどう勘違いするか。 長期の記録を並べると、これも繰り返し現れる、もう一つの「失敗の型」でした。

穏やかに上昇する水面に複数の小舟が一緒に持ち上げられている、追い風を表すミニマルなイラスト
政策の追い風が、相場全体を持ち上げる。全員の船が浮くとき、自分の漕ぎ方の上手さは見えなくなる。

何が起きたか(数字で)

2013年、日銀は「異次元緩和」と呼ばれる大きな政策転換に踏み切りました。 結果として、円安と株高が、長く並走する10年の起点になりました。

指標2013年の1年で(2012年末→2013年末・概数)
日経平均おおむね +57% 規模の上昇
ドル円おおむね +25% 規模の円安進行
図1 政策の転換で、株は大きく上げ、円は大きく安くなった。多くの人の口座が、同時に膨らんだ。

2013年前後の日経平均・ドル円の変化の概数より作成(2026年5月時点の整理)

このとき大事なのは、ほぼ全員の口座が、同時に膨らんだ という点です。 個別の腕ではなく、政策の追い風が、市場全体を持ち上げた。だから、勘違いが起きました。


上げ相場で観察された「3つの勘違い」

1
追い風を、自分の実力だと思う
全員が浮く相場で「自分はうまい」と感じ、リスクを上げる
2
円安の評価益を、確定した利益だと思う
通貨と株価の両方が乗った数字。片方が戻れば帳簿も戻る
3
追い風は永遠だと思う
政策はいつか変わる。前提が変わると、同じ手は通じない

特に 2 番目は、当時の調査やアンケート記録を読み解くと、繰り返し現れる勘違いの型です。 米国株や外貨建て資産が「円換算で」派手に増えるのを見て、それを自分の実力で勝ち取った確定利益だと感じてしまう。 でも、評価益は通貨と株価の両方が乗ったもので、どちらかが反転すれば、帳簿は静かに戻ります。これは初配当の記事で書いた「累積で見る」話とも通じます。


記録から読み解いて、整理しておきたいこと

1. 上げ相場こそ、配分を「変えない」

全員が儲かっている時期は、リスクを上げたくなります。 でも、追い風で増えた時こそ、当初の配分を淡々と維持する。長期の記録を並べると、増えた分でリスクを上げた人ほど、次の局面で大きく戻しているケースが目立ちます。

2. 「実力」と「追い風」を、口に出して分ける

「これは自分の判断で勝った分か、相場全体が上げた分か」── これを、面倒でも一度言語化する。 区別がつく人は、追い風が止まっても落ち着いていられます。

3. 円安の数字は、通貨を抜いて見る

外貨建ての評価額は、円安の分を一度はがして見る癖をつける。 通貨が戻っても残る部分が、本当の地面です。


2026年5月時点で、振り返って思うこと

アベノミクス以降の円安・株高は、形を変えながら、2026年のいまも続く論点です(最新のマーケット日誌でも触れています)。

長い追い風のなかで一番こわいのは、暴落ではなく、「自分はうまい」という静かな勘違いが、リスクを少しずつ上げていくことです。 上げ相場は気持ちがいい。だからこそ、追い風でも配分を淡々と保てば、その上昇分は次の局面でも手元に残ります

派手な勝ち方の話ではありません。でも、追い風が止まったときに残るのは、淡々と整えていた人のほうでした。

—— 渋川 整


これは「過去事例」シリーズの一本です。 本記事は情報提供であり、特定の金融商品の購入・契約を勧めるものではありません。数字は概数で、2026年5月時点の整理です。投資判断はご自身の責任で。