結論を先に書きます
特定口座(源泉徴収あり)で受け取る上場株式の配当は、確定申告をしなくても課税が終わります。これが「申告不要」です。一方、確定申告をして「総合課税」を選ぶこともできます。
今回、国税庁の税率表と配当控除の条件をそのまま当てはめて、配当10万円ぶんの所得税だけを4つの所得帯で計算しました。結果は、課税所得が900万円未満の3例では総合課税のほうが所得税は小さくなり、900万円台の例では逆に大きくなりました。「申告したほうが得」とも「申告不要が楽で十分」とも言い切れず、その人の所得帯で向きが変わる、というのが観察できたことです。
ただし、これは所得税だけの計算です。住民税や健康保険料への影響はこの記事では数字にしていません(理由は後ろに書きます)。
観察した事実 ── 配当の課税には3つの受け取り方がある
国税庁のタックスアンサーによれば、上場株式等の配当(大口株主を除く)は、次のいずれかで課税されます。
源泉徴収の税率も同じ資料で確認できます。上場株式等の配当(大口株主を除く)は、所得税・復興特別所得税として15.315%が源泉徴収され、ほかに地方税5%がかかります(No.1330)。
申告分離課税を選ぶと、配当控除は受けられません(No.1331)。一方で、上場株式等の譲渡損失があれば、配当所得と相殺できる場合があります(配当所得が限度)。ここでは損失がない場合を扱うので、今回の計算は「申告不要」と「総合課税」の2つだけを比べます。
なお、総合課税か申告分離課税かを確定申告で選んだあと、修正申告や更正の請求で変えることはできません(No.1331)。選ぶ前に材料を並べておく理由は、ここにあります。
計算の前提
比べる条件を、先にそろえます。
- 上場株式の配当(国内の株式の剰余金の配当)が10万円。配当所得は10万円とし、借入利子などの控除はなし
- 大口株主ではない。所得控除後の課税所得(配当を含めない)が、4つの所得帯で異なる
- 総合課税の税額は、国税庁の所得税の税率表(2026年4月1日現在)で計算
- 配当控除は、課税総所得金額等が1,000万円以下の部分について、剰余金の配当等は10%(No.1250)
- 復興特別所得税は、基準所得税額の2.1%(No.2260・2026年9月時点)
参考にした税率表は次のとおりです(課税される所得金額の区分と税率・控除額)。
計算する ── 配当10万円が、所得税をいくら動かすか
配当を足したときの所得税の増え方は、「配当を足した後の税額」から「足す前の税額」を引いて求めます。そこから配当控除(10万円×10%=1万円)を引き、復興特別所得税2.1%を上乗せしました。
例A:配当を除く課税所得が250万円
- 260万円のときの税額:2,600,000×10%−97,500=162,500円。250万円のときは152,500円。差は10,000円
- 配当控除10,000円を引くと0円。復興特別所得税も0円
- 所得税の増加:0円
例B:500万円
- 510万円:5,100,000×20%−427,500=592,500円。500万円:572,500円。差は20,000円
- 配当控除10,000円を引いて10,000円。×1.021=10,210円
- 所得税の増加:10,210円
例C:800万円
- 810万円:8,100,000×23%−636,000=1,227,000円。800万円:1,204,000円。差は23,000円
- 配当控除10,000円を引いて13,000円。×1.021=13,273円
- 所得税の増加:13,273円
例D:920万円
- 930万円:9,300,000×33%−1,536,000=1,533,000円。920万円:1,500,000円。差は33,000円
- 配当控除10,000円を引いて23,000円。×1.021=23,483円
- 所得税の増加:23,483円
一方、申告不要のままなら、源泉徴収された所得税・復興特別所得税は10万円×15.315%=15,315円です。
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数字から見えること
差の向きは、所得税の限界税率(配当を足した部分にかかる税率)と、配当控除の10%との関係で決まります。
- 限界税率が10%以下なら、配当控除で所得税がほぼ消えます
- 20%・23%なら、配当控除を引いたあとの税は残りますが、源泉徴収の15.315%よりは小さくなります
- 33%になると、配当控除を引いても源泉徴収の15.315%を上回ります
つまり、どこかに「境目」があります。この計算の範囲では、23%と33%のあいだ(課税所得が900万円前後)で逆転しています。
ここは前提の置き方で結論が変わる部分なので、注記します。
- 配当が税率の区分をまたぐ場合:今回の4例は、配当を足しても同じ税率の区分に収まる例を選びました。区分をまたぐ場合は、上の単純な掛け算にはなりません
- 課税総所得金額等が1,000万円を超える場合:配当控除の率は段階的になります(国税庁は「2.5〜10%」の範囲と説明しています。今回は1,000万円以下の例だけを扱いました)
- 証券投資信託の収益分配や外貨建ての場合:配当控除の率が5%や2.5%になる区分があります(No.1250)。今回の10%は、国内株式の配当を想定した数字です
数字にしていない部分
この記事は所得税だけを扱っています。次の項目は、自治体や保険者によって扱いが異なる可能性があり、今回は一次ソースを確認できていないため、数字にしていません。
- 住民税の課税方法の扱い
- 国民健康保険料や扶養の判定など、所得の額が入る計算への影響
- 外国株・外国ETFの配当(外国税額控除との関係。関連は別の記事に書いています)
「所得税は総合課税のほうが小さかった」ことと、「総合的に手元に残る額が増える」ことは、別の話です。この記事の表だけで、申告するかどうかは決められません。
場面分けして考える
- 所得が低めで、他に申告の予定がない人:所得税だけの計算では、総合課税に有利な余地があります。ただし、申告の手間と、住民税・保険料への影響を合わせて見る必要があります
- 所得が高い人(900万円台以上):この計算の範囲では、申告不要の源泉徴収のほうが所得税は小さくなりました
- すでに確定申告をしている人:配当を総合課税に入れるか申告分離にするかの選択は、変更できません(No.1331)。選ぶ前に上の4例のように、自分の所得帯で試算する手順が使えます
- NISA口座で受け取る配当:非課税なので、この話には入りません
サウナで言えば
水風呂に入る温度を、体の状態で変えるようなものだと思います。同じ冷たさでも、汗をたっぷりかいたあとと、まだ温まりきっていないときでは、感じ方が違います。同じ10万円の配当も、所得帯という「体の状態」しだいで、受け取り方の向き不向きが変わる。決まった正解を押しつける話ではなく、自分の状態を確かめてから入る、という手順の話です。
まとめ
- 上場株式の配当は、申告不要・総合課税・申告分離課税から受け取り方が選べる(大口株主を除く)
- 配当10万円の所得税は、課税所得250万円・500万円・800万円の例では総合課税が小さく、920万円の例では申告不要が小さかった
- 差の向きは、限界税率と配当控除の関係で決まる
- 住民税・保険料への影響は今回の計算に入っていない。個別判断になります
本記事は情報提供であって、特定の金融商品の購入や税務上の手続きをすすめるものではありません。数値は国税庁の公開資料にもとづく2026年9月時点の計算例です。2027年1月以降は復興特別所得税の率が引き下げられ、防衛特別所得税が加わるなど、制度は変わります(No.2260)。実際の判断は、税務署や税理士など専門家にご確認ください。
参考(一次情報)
- 国税庁 タックスアンサー No.1330 配当所得の課税
- 国税庁 タックスアンサー No.1250 配当控除
- 国税庁 タックスアンサー No.1331 上場株式等の配当所得の申告分離課税
- 国税庁 タックスアンサー No.2260 所得税の税率
—— 渋川 整