謡を、習っています
能楽を題材に、謡と仕舞のことを少し書きます。月に何度か稽古する、その続け方を見ていきます。
始めた理由は、たいしたものではありません。古い舞台の静けさに、惹かれただけです。
ただ、続けてみて気づいたことがあります。それは、お金の使い方の話でした。
すぐには、上手くならない
正直に書きます。上達は、遅いです。
謡は、声の出し方一つで何ヶ月もかかります。仕舞の足の運びは、いまだに先生のようにはいきません。一回の稽古で、目に見えて上手くなることは、まずありません。
買って終わりの買い物とは、ここが違います。物なら、お金を払えばその場で手に入る。けれど稽古は、払っても、すぐには手元に何も残らない。残るのは、少しずつ身についていく何かだけです。
払って、続ける
月謝というお金は、不思議な使い方だと思います。
一回ぶんだけ見れば、何が増えたか分かりません。先月の自分と比べても、ほとんど変わっていない。それでも払って、また通う。
ところが、一年続けると、景色が変わります。去年は出せなかった声が、出るようになる。覚えられなかった謡を、口が覚えている。一回ずつは小さくても、続けたぶんが、静かに積もっていくのです。
これは、お金を「使って消す」のではなく、「払って続ける」使い方だと思います。
投資の、長く続ける話と似ている
似たお金の使い方が、投資にもあります。長く、少しずつ続けるやり方です。
毎月、決まった額を積み立てる。一ヶ月ぶんを見ても、増えたかどうか分かりません。途中で下がる月もあります。それでも続けると、年単位では景色が変わってくる。すぐ結果が出ないところも、稽古とよく似ています。
派手なやり方ではありません。一発で大きくする話でもない。ただ、続けたぶんが積もる。能楽を習って、その感覚が腑に落ちました。
趣味と、お金
道具やお稽古の話を書くのは、これで三度目です。漆器を長く使う話と、サウナの三相。今回の能楽も、根っこは同じでした。
何かを一気に手に入れるのではなく、長く付き合う。手入れする。続ける。趣味でそう過ごすうち、お金の使い方も、自然と長い目線になっていきました。
サウナの三相でいえば、外気浴の相に近いと思います。何かを増やす時間ではなく、続けてきたものを静かに眺める時間です。
急がなくていい
能楽をすすめたいわけではありません。何を続けるかは、人それぞれです。
ただ、すぐ結果の出ないことを、払いながら続ける。その経験が一つあると、お金の使い方が少し変わるかもしれません。投資の積立を、不安なく続けられるようになるかもしれない。
一年前より、ほんの少しだけ声が出るようになる——そういう続け方です。急がず、続ける。お金も、たぶん同じです。
—— 渋川 整