長く使い込まれた漆器の椀。隣に手入れ用の布。温かいミニマルイラスト
(漆器と手入れの布。長く使い、育てる道具。)使うほどに艶が出て、手になじんでいきます。

汁椀を、12年

朝の味噌汁を、同じ汁椀でいただいています。手元に置いてから、もう12年になります。

最初は、安い椀を何度も買い替えていました。落として欠けたり、塗りが剥げたり。そのたびに、また安いものを買う。気づけば、台所の棚にいくつも転がっていました。

あるとき、思い切って漆器を一つ買いました。値段は、それまでの椀の数倍。少し勇気がいりました。

手入れする、ということ

漆器は、扱いが少し違います。

食洗機には入れない。使ったら、ぬるま湯でやさしく洗って、すぐに布で拭く。たまに、乾いた布で軽く磨く。手間といえば手間です。

ところが、この手間が、悪くないのです。布で拭いていると、艶が少しずつ深くなる。手になじんでいく。使うほどに、椀が育っていく感じがあります。

12年使って、剥げも欠けもありません。安い椀を何度も買い替えていた頃より、一個あたりは、たぶん安くついています。それに、愛着がまるで違う。

「買って終わり」から「育てる」へ

この経験で、お金の使い方が静かに変わりました。

以前は、安いものを買って、傷んだら捨てて、また買う。それが当たり前でした。一回の出費は小さい。でも、回数を重ねると、案外かさみます。手元には、愛着のない物が増えていく。

良い物を一つ、手入れしながら長く使う。最初の出費は大きいけれど、買い替えがない。一個あたりで見ると、こちらのほうが安く済む。しかも、使うほどに好きになる。

買って終わり、ではなく、買ってから育てる。物との付き合い方が、長くなりました。

お金にも、似たところがある

これは、お金の使い方にも通じる気がしています。

たとえば投資信託の信託報酬。毎日少しずつ引かれる手間賃です。安いものを選んで、長く持つ。漆器と同じで、長く付き合うほど、選び方の差が効いてきます。

もう一つ。良い物を一つ決めると、買い物で迷う時間が減ります。次の椀を探さなくていい。あれこれ比べなくていい。この「迷わなくて済む」分が、暮らしを軽くします。

道具を眺めて、手入れする。サウナの三相でいえば、外気浴の相に近いのかもしれません。何かを増やす時間ではなく、持っているものを静かに整える時間です。

急がなくていい

漆器をすすめたいわけではありません。高い物を買えという話でもありません。

ただ、今ある安い椀を買い替えるとき。次は少し良いものを一つ選んで、手入れしながら使ってみる。それだけで、お金の流れが少し変わるかもしれません。

12年使った椀は、今朝も棚にあります。艶を見るたび、いい買い物だったと思います。急がず、長く付き合う。お金も、たぶん同じです。

—— 渋川 整