はじめに

この記事は、2011年3月の東日本大震災を扱います。 多くの方が亡くなり、いまも影響が続いている出来事です。本稿は、その悲しみを軽く扱う意図はまったくありません。

ここで書けるのは、ごく狭い範囲 ──「災害のとき、お金の運用がどう扱われたか」という、当時の報道記録や金融機関の公開資料から読み取れることだけです。それでも、十年以上経って残った観察があるので、控えめに整理しておきます。

静かな夜の部屋に、小さな灯りがひとつ灯っている、穏やかで控えめなイラスト
揺れている時に、まず守るのは口座ではない。手を止めて、灯りを確かめる。

まず、お金の話より先に

3月11日のあと、当時の証券会社や金融機関の対応記録を辿ると、最初に動いたのは相場の見立てではありませんでした。 利用者や従業員の、安否の確認です。

そして、業界内で最初に共有されたのも、相場見通しではなく、こうした趣旨の案内でした。

「いま、運用の判断を急いでもらわなくていい。まず、ご自身とご家族の安全を。」

これは、業界の損得を超えて、多くの金融機関が同じ姿勢を示していた、数少ない場面として記録に残っています。


数字としては、こう動きました

記録として、数字も控えめに置いておきます。

指標動き
日経平均数日で 約 −16% の急落
ドル円76円台まで円高が進行 ── 戦後の歴史的な円高水準(同年さらに進む)
図1 株は急落し、円は史上最高の高さへ。数字は大きく動いたが、当時の優先順位はそこではなかった。

2011年3月前後の日経平均・ドル円の概数より作成(2026年5月時点の整理)

数字だけ見れば、大きな急落と歴史的な円高です。 でも、当時の記録を並べて読み返すと、一番強く伝わってくるのは「この数字を見て、いま何かを判断する局面ではない」という姿勢でした。


あの時の記録から読み取れる、3つのこと

派手な投資術ではありません。災害という極端な局面だからこそ見えてくる、地味な3つです。

  1. まず手を止めていい。 急落の最中に新しい判断をしないことは、何もしないことではなく、立派な判断です。
  2. 自動で動いているものは、止めなくていい。 つみたての自動買付は、止めるための連絡をする余力さえ惜しい局面では、むしろ「触らない」が正解でした。
  3. 生活防衛資金の意味が、はっきり分かった。 現金が手元にあることの安心は、平時には見えにくく、こういう時に初めて分かります。

特に 3 番目です。 平時に「生活防衛資金を6ヶ月分」と言われてもピンと来ませんが、ライフラインが止まる経験をすると、現金の手触りの意味が変わります。投資の前提として、ここだけは崩さない ── それが、当時の記録から繰り返し読み取れることでした。


2026年5月時点で、振り返って思うこと

災害は、お金の話の「外側」から、突然やってきます。 だからこそ、お金まわりは 平時のうちに、揺れても崩れない形に整えておく しかありません。

  • 生活に必要なお金は、現金で確保しておく(投資に入れない)
  • 自動で続くものは、非常時に手をかけなくても回るようにしておく
  • 急落の数字を見ても、まず手を止めていい、と自分に許可しておく

これは投資術ではなく、生活の備えの話です。 そして、こういう備えは、相場が穏やかな今だからこそ、静かに整えられます。

最後に。亡くなられた方々に、あらためて哀悼の意を表します。

—— 渋川 整


これは「過去事例」シリーズの一本です。 本記事は情報提供であり、特定の金融商品の購入・契約を勧めるものではありません。数字は概数で、2026年5月時点の整理です。投資判断はご自身の責任で。